りんごのうえん

反資本主義、反家父長制

映画『アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』批評 ※ネタバレあり※ 辛口 ⚠性暴力事件に関しての言及あり

⚠性暴力事件に関しての言及があります

私は、そこまでたくさん映画を観ているわけでもない。

映画館に頻繁に行くわけでもない。

表題の映画を観に行く前に映画館に行ったのは、2020年初頭に『パラサイト』を観に行ったときだった。

この3年間はコロナ禍もあったが、平時でも3年くらい映画館に行かないことは、ままある。

そんな私が、3年ぶりに映画館で観た映画がアイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』だった。

 

しかし

「これ、アイカツか?」

 

ペラペラな内容でしたね。

あまり映画を観ない私にとって、ここ20年でも下から数えたほうが早いくらいのワーストな映画体験でしたよ。主に気になった点は以下の3つ。

 

A.まず、キャラが薄い

B.あと、演出がいちいち古い

C.そして何より、ジェンダーとかセクシュアリティとか

それでは、順番に見ていきましょう。

 

 

A.キャラの薄さについて

登場キャラをSoleilの3人、かえで、ユリカ、らいち、美月さんに絞っているのだから、一人ひとりのキャラの描き方にもう少し厚みが出せたはず…。

アイカツ!』、アニメ本編では登場人物が悩みながら成長する姿が描かれていたけれど、この映画ではそういう描写は無かった。

「成長」ではなく「再会」がテーマだとしても、順風満帆にキャリアを積んだ3人が再び出会います、というだけの話なので、何というか、こう、「もっとあるだろ」みたいな。

ストーリーとして、物足りないように思いました。

 

あまり英語の得意ではないいちごに英語を習っちゃうほど英語の苦手そうなあおいが、よりにもよってアメリカの大学に進学し(たぶん英語で高等教育を受けるであろうに)そこまで労した様子もなく、ストレートで卒業できちゃうし。
(アニメ本編では、あおいがアメリカの大学を目指している様子は無かった。まぁ、劇場版になって設定が変わるのは仕方ないけど、それならそれで映画中に「大学では英語で苦労したよ」とか「実は高校時代は密かに英語の猛勉強をしたよ」とかの描写があれば、説得力が増してキャラの厚みも出ると思うんですけど。」)

いちごはずっとトップアイドルとして君臨しているようだったけど、ずっとトップであり続けることの苦悩とかは描かれていなかったし。
(まぁいちごに関して言えば、アニメ本編でも超人的に描かれていて、ある時期以降は内面を掘り下げる描写が少なくなっていたように思いますが)

蘭も特に悩むことなく、順調に役者としてのキャリアを積んでいるようだったし。

だって、蘭ですよ? さんざんキャリアや仕事について悩んできた蘭ですよ?
中学生時代は、子どもの頃からずっと続けてきたモデル業についてすら悩んでいた。Tristarの時も、すごくキツそうだった。恵方巻を作ったときも、自分らしさを出していいのかどうかすごく悩んでいた。

モデルから俳優のほうに仕事の比重を大きく変えて、今まで積んできたモデルとしてのキャリアではなく舞台俳優の方向にシフトして、あの紫吹蘭が悩まないわけがないと思うんですけど。

特に私は個人的に、蘭が悩みながら自分のキャリアを模索する姿に、共感を抱いたりリアリティを感じたりしていたので「そんなにあっさり役者として成長するんかい?」と、思ってしまいました。

 

他のキャラの描かれ方も、軽かった。
ワイン飲ませて絡み酒させておけばユリカっぽいだろうとか、パラシュート降下させて海鮮物を持たせておけばかえでっぽいだろうとか…適当すぎません?

 

まぁ、劇場版ですからね。10周年企画の。いちご世代に区切りを付けたい気持ちも、あるのでしょうし。

あまり濃い内容にできないのであれば、いっそのことLIVEシーンメインで応援上映に特化したような作品にしてもよかったんじゃないですか?

 

B.演出の古さについて

・キャラが大人になったことを、酒を飲ませる演出で描写する

・役者になった蘭が真っ赤なスポーツカーに乗って、舞台の稽古に通っている

いつの時代の話なんですかね?

バブル期のトレンディドラマみたいな演出に感じます。

2023年にもなって、古くさいのではないですか?

そもそもアニメ本編で蘭が乗り物好きだという設定は一度も出てこなかった。むしろ渋い物好きとして描かれていたし、そんな蘭が車に乗るとしても、真っ赤な(蘭のイメージカラーの紫色ですらない)スポーツタイプの車より、もっと実用的な車では????


A.指摘のキャラの薄さの指摘にも繋がりますけど、えびポンを車にぶら下げておけば蘭っぽくてOKだとでも思ったのでしょうか……?

百歩譲ってアイカツにリアリティを求めてはいけないのだとしても、せめてキャラの整合性はもう少し取っていただきたいなと思いました。

気候正義の観点から富裕層のプライベートジェット機使用が問題視されたり、あるいは動物倫理の観点から動物食が見直される昨今、アメリカ育ちのかえでがプライベートジェットを使ったり、鍋に容赦なく動物性食材をぶち込んだりする描写も古くさい。

10年前の、アニメ本編放映当時ならともかくね…って感じです。

アイカツ10周年企画ということで、劇場にはアイカツを観て育ったのだろうな、という観客の姿も、パッと見では多かったです。

ここは思いきって、アイカツを観て育ったような世代に脚本や監督を任せてみてもよかったのではないでしょうか?

 

C.ジェンダーとかセクシュアリティとか性暴力に関する意識の低さ

これね…。もともと「女児向けアニメ」でしょ? 女性ファンも多いでしょ?

それなのにジェンダーとかセクシュアリティとか、何より性暴力に関する認識がダメダメだと思いました。

 

まず、酔っ払ったユリカをかえでが送っていくシーン。

「まずはユリカ、そしてらいち、最後に私」とかえでが言うことで、かえでとユリカが親密な関係だということを否定している。

これアニメ本編でも散々あった、「百合っぽいことを匂わせておくけど、公式では否定しますよ」という、クィアベイティングですね。

10周年なんだし、かえでとユリカが付き合うくらいしてもいいんじゃないかと思うわけですが、そういうことはしないわけです。

これは中立を装っているのではなく、はっきりとした同性愛蔑視です。

キャラ同士で百合を連想されたくないのであれば、最初から親密さを描かなければいいのに、恋愛感情があるようにも描きながらも公式ではやんわりと否定する、という非常に残酷なやり方です
(ちなみに同じSUNRISE製作、アイドルもので女性キャラがたくさん出てくるという共通点のあるアニメ『ラブライブ!』も、女性同性愛や百合に関して、シリーズ通して同じように残酷な描き方でした)

 

次に、蘭の舞台を演出していたナニガワ先生。

蘭が高名な演出家のナニガワ先生の舞台に演出しているんですけど、そのナニガワ先生が年配の男性で、しかも蘭のことを「蘭」って呼び捨てにする描写がありましたーーダメです。

世界的に見ても、近年 metoo運動が盛んになりました。

業界で有名な男性映画監督やプロデューサーが「役をあげる」といった口実で、若手の女性俳優に性行為を強要する事件が相次いで報道されました。

ナニガワ先生と紫吹蘭もその構図に当てはまり得る、のですが。

しかも何故か蘭のことを「紫吹」とかでなく「蘭」って呼び捨てに(その演出家は役者のことをそう呼ぶ、とかそういった説明もなしに)するのが気持ち悪いな、と思いました。

てかアイカツでは、登場人物が実力ややる気を認めてもらう相手のデザイナーさんを女性やクィアっぽい人で描いてきたのですから(子どもが大人にジャッジされるという構図自体が暴力的なものですし、同性間でも権力勾配によって性暴力が起こることは、ジャニー喜多川氏の例でも明らかなことですが

 

ナニガワ先生も、女性やクィアとして表象するのではダメだったのか…。

あれだけ話題にもなった metooと同じような構図になってしまっていることを、誰かどうにかできなかったものなのか…。

 

音楽を担当していたMONACA田中秀和氏による性暴力加害事件を受けてなお、アイカツ制作陣の性暴力に関する認識が甘いのでは、と指摘せざるを得ません。

LIVEや映画で氏の担当した楽曲を流さないのはもちろんのこと、映画で曲のタイトルに言及したり、写したりするべきではなかったと思います。

何より、公式がきちんと「性暴力は許さない」というステートメントを、もっと分かりやすい形で、ありとあらゆるところで掲げなければならないと思います。

自分たちが楽曲の製作を依頼して、その楽曲のヒットもあっての今のアイカツ人気なわけですから、もっときちんと分かりやすい形で性暴力に反対するのが誠実な態度というものではないでしょうか。

アイカツはアニメ本編においても、ジェンダーや家族間に保守的な描写が目立ちます。

そのことへの言及は、また機会があれば書きたいと思っています。

 

【2023.05.09 追記】

ちなみに、日本の芸能界・演劇界でのセクハラ、パワハラについて調べてみると、「演劇•映面•芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」という団体がヒットするかもしれません。

この団体の代表である知乃という人が、Twitterで全く無関係な個人に対して陰湿な嫌がらせをしていたことを、注意喚起として書いておきますね。

当時の様子をまとめたTogetterは今は非公開になっているようですが、いちおうリンクを貼っておきます

当時、Twitterで理不尽な攻撃を受けていた被害者のかたがたに連帯を示す「#カワダさんとAliceさんに連帯します」というタグも作られました。このハッシュタグは今でも有効ですのでTwitterで検索してみると、知乃氏が個人に対してどのような攻撃をしていたか、一端が分かるかと思います。